スモールステップを進めるときに使えるカードやシート
場面緘黙をもつ子どもの発話改善に有効な介入として、エクスポージャー法・トークンエコノミー法・フェイドイン法・シェイピング法がよく用いられます。発話を増やす取り組みは、まず今話せている場面の発話を充実させることが大切です。安心できる環境を整えて、子どものエネルギーがたまっているときに行います。
・フェイドイン法は、今話せている人と話せる場所で楽しい活動を行い、そこに新しい人を徐々に加えて話せる人を増やす方法です。
・エクスポージャー法は、不安を感じる場面(人・場所・活動)に直面することでその状況に慣れていき、不安や緊張が軽減すること を目指す方法です。
・子どもの意欲を保つには、トークンエコノミー法が効果的です。トークンエコノミー法は望ましい行動を増やす(強化する)ためにトークンと呼ばれる報酬(ごほうび)を与えて、報酬が 一定の量にたまったらより具体的な報酬を与える方法です。
・シェイピング法は、最初は吐く息やささやき声から始め、単語から文、長い文、自発語へと発話をより高度なものへと導く方法です。
※ 下記より、PDFやwordをダウンロードできます。
【ここから始める記録シート】
■できたよ!シート PDF
このシートは、親と子が、子どもの『できた行動』に注目できるように、子どもの行動を「家で /『家や学校』の外で / 園や学校で」の3つに分けて簡潔に記録するためのシートです。場面緘黙症状の改善は、一歩ずつスモールステップで進めていきます。そこでは、親も子も「できていない行動」ではなく「できた行動」に目を向けることがとても大切です。人は不安が高いとき、自分のできなかった部分やできない予測に注目し、ネガティブな思考反芻や回避行動を強めてしまいがちだからです。親は、先生や支援者に子どもの様子を話すとき、子どもの前で「できていないこと」を話さないようにしましょう。難しいことや新しい行動にチャレンジするとき、「できた!」という達成感こそが、次へのステップへの原動力となります。
小児科やクリニックなどで「できている部分」を共有するときにもこのシートが活用できます。発話行動を記入しますが、発話がほとんどない場合は、話すこと以外のコミュニケーション行動について記入することも、子どもの達成感に役立ちます。
【発話チャレンジを始めたら使用するシート】
■ チャレンジ記録メモ★ PDF
このシートは、家族が場面緘黙について十分理解し、子どもがスモールステップの取り組みを始めてから、その行動を記録するためのシートです。「日付」と「どこで(場所)」「誰と(人)」「何をしたか・何を話したか(活動)」、それから、その時の不安緊張度を5段階で記入します。
小学校高学年以上の子どもなら、子ども自身が書き込めることが多くあります。親が子どもから聞き取ったことを記入してもよいでしょう。また「どこで誰とどんなことを話したいか」発話の目標を自分で書けるとよいでしょう(子どもの中には、話せるようになりたい気持ちが少なかったり、目標をイメージすることができない子どももいます。チャレンジが進むとイメージできる子どももいますし、後述の「トークンエコノミー法」の使用が有効な子どももいます)。
幼い子どもの場合は、カレンダーに目標行動を場所や人で色分けして○シールを貼るなどして、できた行動を子ども自身が視覚的に把握できる方法も、達成感や肯定感を高めるのに効果的です。
【フェイドイン法を行うときに適した活動】
フェイドイン法とは、今話せる人と話せる場所で下記のような楽しい活動を行い、そこに新しい大人や子どもを徐々に加える方法です。フェイドイン法を実施するとき、下記のようなカードゲームが役立ちます。amazon等からご購入ください
例えば、自宅や放課後の教室で、すでに話せる人との会話の中に、新しい人がフェイドインします。新しく加える人は必ず1人だけです。決まった台詞や何を話すかルールがある活動の方が発話しやすいです。子どもが遊んで発話している中、新しい人が入室し部屋の隅にいて他のこと(読書など)をします。子どもの発話を確認しながら、少しずつ子どもの視界に入り、距離を近づけて同じゲームに加わります。
(Axiety Canada作成の動画で、フェイドインの実際が見れます。7分半くらいから、おしゃべりしながらお絵描きをしている子どもと両親の中に、母の知人がフェイドインしています。この動画では、カードゲームは使用していません。子どもに話すスキルを用いています)。
■数数え
もっともシンプルで不安の少ない方法です。順番に「1」「2」「3」・・・と1つずつ字を数えます。
発話できていたら新しい人を少しずつ近づけていきます。
ビー玉を転がしながら行うと、自分の声を聞かれることに思考がいきにくく、楽しさもあってお勧めです。
■「UNO」やトランプ
カードを出すときや引くときにに毎回「色と数字」「パス」なども必ず発話するルールにします。
■「タコス アクションカードゲーム」
一人ずつ「タコス」「ネコ」「ヤギ」…と言いながらカードをめくり、言ったものと同じイラストが出たら、即座にカードを
タッチするゲームです。言う単語が決まっていて、とてもたのしい楽しいゲームです。
■「グランディング ふわふわのくま カードゲーム」
くまの数を数えながら手札を出していきます。話すことは「数字」のみです。
■「 うんちしたのだあれ?(Who Did It?)」ブルーオレンジ
決まったセリフ文を言い換えるため、単語でなく文の発話となります。セリフに「うんち」が入っているのおもしろいです。
■「わたしはなあに? カードゲーム」 学研ステイフル(Gakken Sta:Ful)
質問に答えたり、質問を考えたりできます。
最初は、頭にカードを貼るのではなく、相手に見せないように手でもつ方法で使用することをお勧めします。
■「えらんで きめて つたえるゲーム すきなのどっち?」 筑波大学附属大塚特別支援学校 佐藤義竹教諭考案
2つの選択肢から選びます。「〇と△、どっちが好きですか?」と質問して、相手が「〇です」と選びます。
質問役を順番に行うのがお勧めです。答や選択肢に「わからない」「どちらも」などをいれるのもよい方法です。
簡単に言えるようになったら、さらに理由も言うことにすると難易度があがります。
■「おもしろ なぞなぞ かるた」アーテック
かるたとしてではなく、なぞなぞカードとしての使用がお勧めです。「それは何色ですか?」「動物ですか?」
「何文字ですか?」「ヒントください」などと質問したり、それに答えたりします。
■「きいて・はなして はなして・きいて トーキングゲーム」tobiraco
家庭でまず実施して答えられたカードを、新しい場面(人・場所)でチャレンジするとよいでしょう。
■「しつもんブック100」tupera tupera (著)
質問集としてお勧め。英語の質問も掲載されています。日本語よりも英語の方が緊張が下がり発話しやすい子どももいます。
【エクスポジャー法を行うときの「活動」で利用できるカード】
エクスポージャー法としてよく実施される活動として「お店で注文する」「店員に○○はどこですか?と聞く」「コンビニで『袋要りません』等を言う」「親戚やいとこに電話する」「インターフォンで話す」などがあります。はじめは台詞を決めておきます。下記のようなカードやシートをご活用ください。
■質問カード (公立小学校教諭 吉本悠汰先生作)PDF
すでに話せる場面で十分質問や応答の練習をしてこのカードに慣れてから、エクスポージャー法で用います。例えば、保護者や心理士が、まだ話せない大人や子どもへの発話を増やす支援を行うときに用いたり、学校で先生と少し話せる子どもが、もっと先生や友達との会話を増やしたい時に用います。慣れてきたら、理由も言うようにしたり、オリジナルの質問も加えるとといいでしょう。
【エクスポジャー法を行うときのシート】
■「子どもへの質問」を人にお願いするためのシート
エクスポージャーでの発話は、「質問する」よりも「質問に答える」方が難易度が低いです。保護者や支援者が、相手にこのシートを渡して「子どもがおしゃべりの練習をしています。次の質問をしていただけますか」などと言って、質問を読んでもらいます。必ず予行練習してから行います。この形式の発話に慣れてきたら、次の実施では、理由も言うようにしたり、相手に「何か質問してください」とお願いするのもいいでしょう。
このPDFには「質問例シート」と「質問の台紙シート」の2ページがあります。最初は1ページ目の質問例のように名前や年齢等が言いやすいことが多いですが、他の言葉の方が言いやすい場合もあります。子どもが発話しやすい質問から始めましょう。2ページ目のシートは、エクスポージャーを実施する前に、子どもといっしょに質問カードを数枚えらび、台紙に貼ります。付箋や白カードにオ リジナルの質問を書き込んでもよいです。
■エクスポージャー時に読むセリフシート
新しい人に、子どもが質問するときに読むセリフのシートです。子どもといっしょに質問カードを数枚えらび、台紙に貼ります。必ず予行練習してから行います。最初の「こんにちは」や名前は、大人が言った後すぐに子どもが言うようにすると発声がうまくいきやすいです。例えば「好きな色は何ですか」ときいて、相手が質問に答えたら、「私は青が好きです」などと自分ことを話すようにしたり、セリフ台紙を見ずに話すようにしていきます。テキストです。ここをクリックして「テキストを編集」を選択して編集してください。
■どきどき不安きんちょう度チェックシート [学校で話せない子ども達のために]へリンク
子ども自身が不安の大きさを数値化して把握するためのチェックシートです。
子どもの不安の程度をはかって、段階的エクスポージャー法を行う際にどの行動を実施するか目安にします。エクスポージャー実施前と実施後で不安が下がることを子ども自身が実感するためにも用いることができます。
(発話のついての取り組みは、場面緘黙について家庭と学校がきちんと理解し、子どもがスモールステップの取り組みを行える環境が整ってから用いましょう)。
【トークンエコノミ―法に使えるシート】
子どもの発話の目標と発話の回数や状態を記録し、発話の強化を行うためのシートです。
1つ目のPDFは、学校外での発話が増えて、学校内で少し発話できる段階になってから使用する項目例です。連絡帳の最後に貼って、担任の先生と子どもの学校外での頑張りを家庭と共有し、学校での発話について記録をお願いする方法もあります。
2つ目のPDFは項目が空欄のシートです。子どもの状態に合わせて項目を記入してください。エクスポージャーの取り組みがなされておらず、家庭外で発話が難しい場合は、家庭内のあいさつや、お手伝いなど発話以外の「増やしたい行動の強化」に用いることもできます。1週間は子どもにみせずにチェックして、7割以上できる項目を必ずいれておくのがコツです。
場面緘黙を持つ子どもにとって、発話は不安や恐怖にあえて立ち向かう行動です。ごほうびを設定し工夫することで、こどものモチベーションを保つ工夫をします。まず親からの誉め言葉が、子どもの家庭内での発話への1番のごほうびであることを忘れないようにしましょう。誉め言葉を嫌がる子どもいるので慣れやその子に合わせた工夫が必要です。ごほうびの設定についてはぜひ専門家と相談することをお勧めします。「1回話したら大きなごほうびがもらえる」という設定では、継続して発話チャレンジを行うことが難しいからです。
○印や発話回数を記入し、目標に達すれば子どもに報酬(シールやごほうび)をプレゼントします。まず1週間記録した結果に、1つ足して難しくした目標を設定し、ごほうびは何がいいか子どもと話し合いましょう。特別のごほうびを買い与えるのでなく、普段からあげているものを工夫しましょう。高価な物の購入は避けます。例えば、ごほうびは「大/中/小」を設定する方法があります。[例:家族以外の人と○回以上話せたら小ごほうび(100均1個買い物・ゲーム時間○分増)、学校で○回以上話せたら中ごほうび(お菓子や文房具やカード)、全項目で○個以上で大ごほうび(外食やおしゃれ品など)]。達成したら次週は目標の回数が1つアップするか項目を難しくします)。
【エクスポージャー法(+トークンエコノミー)に使えるカード類】
■おはなしチャレンジカード (公立小学校教諭 吉本悠汰先生作)PDF
このカードは、担任など相手に、かすかな声で受け答えができるようになってきた子を対象とし、学校で発話できる相手、場面を増やすために作成しました。
絵の完成を目指しながら、スモールステップに楽しく取り組めるようにしてあります。
「おはなしチャレンジカード」の使い方
(1)はじめに (2)注意点 (3)カードの使用イメージ (4)カードの使い方 (5)ピースの作り方・使い方
(6)裏面貼り付け用紙
■九九がんばりカード (公立小学校教諭 吉本悠汰先生作)PDF
九九という「活動」を行い、「人」と「場所」の設定をステップアップしていくためのカードです。
このカードの「人」の設定を「親」や「兄弟」に変更したり、「場所」の設定を「放課後の教室」や「電話」に変更したり、「活動」を「音読(1行ずつ読む活動がお勧めです)」に変更して使用できます。今すでに話せている場面を起点に、新しい「人」か新しい「場所」を設定していくのがコツです。