​場面緘黙とは

家庭ではごく普通に話すのに、幼稚園・保育園や学校などの社会的な状況で声を出したり話したりすることができない症状が続く状態を言います。体が思うように動かせない緘動(かんどう)という状態になることもあります。話せない場面は様々ですが、発話パターンは一定しています。場面とは「場所」「(そこにいる)人」「活動内容」の3つの要素で決まります。


海外では、場面緘黙は小児期の不安症であり、「自分が話す様子を人から聞かれたり見られたりすることに怖れを感じる」恐怖症の一種ととらえ治療や支援を行なうという考えが主流となっています。

自分の意思で「話さない」わけではありません。「話せない」のです。これは誤解が多いポイントです。これまでは、「場面緘黙は大人になれば治るもの」と考えられてきました。しかし、適切な支援なく学校生活をすごした場合、長期にわたるストレス状況から、うつ的症状や不登校などの二次的な問題へとつながるケースも見られます。海外の資料によれば、たとえ発話ができるようになったとしても、成人後に社会不安障害などの不安障害に悩まされることも多く、早い時期からの適切な対処の重要性が強調されています。NHKハートネット(記事公開日:2018年09月07日)もご参照ください。

 

名称について

米国の精神疾患の診断・統計マニュアルDSMでは、1994年に診断名が” elective mutism”から、”selective mutism”に変わりました。”elective”という言葉には、場面緘黙児があたかも特定の場面で話さないことを「選んでいる」ような語感があり、心理学者ですらそう誤解しているような状況が広まっていたためです。自分の意志で話さないことを選んでいるわけではないことを示すために”selective”という用語が採用されました。

DSM-5日本語版(2014)では「選択性緘黙」と表記されており、現在日本の正式な文書はこの名称が多く使われています。しかし、「選択性緘黙」という名称が、様々な誤解を招いているケースがあることから、2018年、日本場面緘黙関連団体連合から、DSM-5とICD-11の和訳を『場面緘黙』と改定を求める要望書を関連学会に提出しました。

 

診断基準

DSM-5(2013)では、不安症群に分類されています。診断基準は下記です。


1)家などでは話すことができるにもかかわらず、ある特定の状況(例えば学校のように、話すことが求められる状況)では、一貫して話すことができない。
2)この疾患によって、子どもは、学業上、職業上の成績または社会的な交流の機会を持つことを、著しく阻害されている 。
3)このような状態が、少なくとも一ヶ月以上続いている。(これは、学校での最初の一ヶ月間に限定されない)
4)話すことができないのは、その子がその社会的状況において必要とされている話し言葉を知らない、または、うまく話せないという理由からではない。
5)コミュニケーション障害(例えば、吃音症)ではうまく説明できない,また,自閉症スペクトラム障害、統合失調症またはその他の精神病性障害の経過中以外に起こるものである。

 

DSM-5では、知的障害、自閉症スペクトラム障害の場合は、そちらが優位の診断となります。ICD-11(2019)では、これらの併存症の表記が可能(と解釈可能)となりました。

 

自閉スペクトラム症などの神経発達症群の2次的症状として場面緘黙の症状が出ている場合は、神経発達症群への対応が基本です。​話せないこと以外の困り感や特性を知って子どもを支援しましょう。

 

場面緘黙の分類

場面緘黙は、医学・法令・学校教育で、分類が異なります。

・学校教育においては「情緒障害」に分類されており、「特別支援教育」の対象です。

・医学的には「不安症群」に分類されています。

・法令上は「発達障害者支援法」の対象として省令に含まれています。

・「障害者差別解消法」によって、学校や職場に対して「合理的配慮の提供」の義務が明確に示されました。

 

発症率と発症時期

調査によってばらつきがあり、0.03~1%の間でとされています(APA,2013)。アメリカのマスコミは0.7%という調査結果をあげることが多いようです。近年わが国で行われた大規模な調査では,0.21%という数値が報告されています (梶・藤田, 2019) 。

発症は、通常5 歳未満で、社会的な交流や発表などの機会が増える入園入学後に、症状がはっきりしてきます。ほとんどの報告で男児よりも女児に多くみられますが同数という調査結果もあります。

発症率のばらつきは、地域差だけでなく、調査方法(調査対象・場面緘黙の定義とその解釈・除外診断の有無)や人前で話さないことを問題視する文化かどうかも影響するのではないかと思われます。

 

場面緘黙症状の程度

場面緘黙児の状態は多様です。家庭でも家族以外の人と全く話せない子どもや、学校以外(登下校中やおけいこごと、店など)でも話せない子どももいます。学校で、友達と話せるが先生とは話せない子どもや、発表はできる、先生とは話せるが友達とは話せないなど、様々な状態の子どもがいます。また、発話だけでなく、園や学校で動作の制限や抑制がある子どももいます。

 

大人しい子どもと場面緘黙の子どもの境界は明確ではありませんが、「発話の程度」と「発話できない期間の長さ」で区別されます。「園や学校のクラスで、発表や音読ができない」「園や学校で、友達と話せない」「園や学校で先生と話せない」のいずれかが続く場合、場面緘黙の可能性があります。

 

診断基準にはあてはまらないケースであっても支援が必要です。小さな声でなら話せる場合や少し話せている場合、かえって理解や支援が受けにくく、症状の悪化や他の症状発現のリスクが高まります。大人しい子どもや発話が少なかった子どもが、クラスでの孤立や不安の高まりによって小学校高学年以降に場面緘黙が出現するケースもあります。

■発話行動のアセスメント

場面緘黙症状の程度(発話できる範囲とその程度)を測定する場面緘黙調査票(SMQ-R) をご活用ください。

発話行動が、どの場面でどの程度できているかを測定できます。誰とどこで、どんな活動で話せるかをしらべましょう。

■園や学校における発話以外の行動のアセスメント

場面緘黙児は、園や学校で話せないだけでなく、行動が抑制されている場合や動作の苦手をもつ場合があります。「学校での行動表出チェックリスト」をご活用ください。担任の先生に「教師記入用 学校場面別 行動チェックシート」に記入してもらいましょう。発話以外の行動ができにくい時は、まず動作へ配慮や支援が必要です。

 

​発症要因

場面緘黙をもつ子どもの状態やその背景は多様です。発症要因は単一ではなく複数要因から生じるとされています。子どもによって異なる要因で症状が形成され、異なる要因で症状が維持されます。


不安になりやすい「行動抑制的な気質(Kagan)」との関連が指摘されています。入園入学や転居などの急激な環境変化、発達面のかたよりや苦手領域、回避行動を助長する環境要因などが影響します。社交不安や分離不安など、他の不安症を併せ持つことも多くあります。

視覚(斜視や遠視)や聴覚(中耳炎・難聴・その他の聴覚障害)の問題、身体疾患への治療やケアも見落としのないようにしましょう。臨床場面での場面緘黙児の中には「かなりの割合で発達障害を併発している」「コミュニケーション障害を併存するケースが多い」「中には感覚統合障害が見られる子どもがいる」等の報告があります。自閉スペクトラム症やコミュニケーション障害(言語障害、語音障害、吃音、社会的語用論的コミュニケーション障害)、発達性協調運動障害の併存は、症状のために評価や支援が遅れがちになるため注意が必要です。神経発達障害の診断はつかない(いわゆるグレーゾーンの)子どもにも苦手領域への支援が必要です。

 

トラウマが場面緘黙の原因であるというエビデンスはありません。トラウマ性緘黙や失声症、反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)が疑われる場合は、場面緘黙と区別して支援する必要があります。トラウマ体験や幼少期の逆境体験が、場面緘黙症状を持つ子どもの状態に影響しているケースもあります。また、周囲の理解やサポートがえられず、無理解による大人の叱責、クラスでの孤立などがおきると、場面緘黙症状が固定したり悪化したりします。子どもがおかれている環境や子どもの状態に合わせた支援を行うために、教育や医療、福祉など各分野の機関の支援や連携が必要です。

 

​園や学校での支援

保護者の方はまずリーフレット を学校に持参し、スクールカウンセラーや担任の先生と話しあわれることをお勧めします。教育や福祉、医療など各機関にも持参し相談しましょう。

場面緘黙児が園や学校で困難なことは、発話に限りません。発話ばかりに注目せず、動作や非言語表出について十分な支援が必要です。ど
のような支援があればその動作や行動ができそうか、それぞれの項目でできそうな参加方法を探しましょう。周囲の大人が、子どもができそうな選択肢を提案し、子ども自身が選んでチャレンジする方法をお勧めします。

 

園や学校と合意的配慮について話し合いましょう。例えば、歌や音読を評価する時は、筆記や指さしでの実施、クラスメイトの注目が少ない立ち位置・複数人同時での実施、別室でのテスト、家庭での録音や録画利用などを検討しましょう。
個別の指導計画作成がなされていない場合は、新学年に上がる際に、保護者が書類を作成して学校に提出するとよいでしょう。

 

​本人の症状理解

大人になってから、自分が場面緘黙だったことを知ったという場面緘黙経験者の方が多くいます。場面緘黙の症状のために、能力や個性を学校という場で発揮できずつらい思いをしてきました。周囲から理解がえられず、理不尽な扱いに苦しんできた人も少なくありません。さらに、本人も場面緘黙という症状を知らず、症状と性格とを混同し、自己否定によって、傷つきを深めてしまったケースが多くあります。最近は経験者によるコミック本や書籍が出版され、TVや新聞などのマスコミでも取り上げられるようになってきました。まず家族や教師が場面緘黙を理解すること、そして本人が場面緘黙について知識が得られるようサポートすることが大切です。

お子さんに、絵本「なっちゃんの声」や書籍「どうして声が出ないの?」を読んであげましょう。親子で場面緘黙について話せる状態でない時は、家庭の棚に置いておきましょう。心理教育として、支援者といっしょに読むのもよい方法です。場面緘黙児は一人ひとり状態が異なりますが、話せない症状をもつのは自分だけでないことを知ることは、子どもの孤独感を和らげるでしょう。長期的な視野を持ちながら時間をかけて、しかしあきらめずに、子どもと共に場面緘黙と向き合っていけるようにしていきましょう。

 

家庭でできること

親の過保護やしつけなど「育て方のせい」と考えるのは誤りです。しかし、症状の改善には、保護者の理解や、子どもへの接し方の工夫は欠かせません。子どもは園や学校で緊張や不安を抱えています。家庭における楽しい活動や身体を使った遊び、家庭内のおしゃべりやお手伝い、お稽古事や地域活動、友達との交流のサポート等を促しましょう。


場面緘黙をもつ子供の中には、家庭でかんしゃくがあったり、言語表現の力が不足していたり、感情のコントロールの困難を抱えていたりするケースがあります。場面緘黙をもつ子どもの発話を、家庭から学校へと増やしていこうとするとき、家庭での良好なコミュニケーションが土台となります。相談機関等を利用して、子どもの特性を理解し接し方を工夫しましょう。望ましい形でのコミュニケーションの行動を増やすのに、ペアレント・トレーニングも有効です。


家庭が安心できる環境であることが大切です。そしてまた、「安心して失敗しリカバリー体験を積める環境」であることが大切です。子どもの強みに注目し、子どもの好きなこと、できそうなことに、家庭内でも少しずつチャレンジさせてましょう。家庭で自分の思い通りにいかない時に、感情をコントロールしたり、気持ちを切り換えたり、適切な自己主張をしたり、家族と交渉したり、他の解決法を考えたりする経験を積めるようにサポートしましょう。

 

スモールステップで発話場面を増やしていく方法

スモールステップの実践は、「段階的エクスポージャー法」という行動療法や認知行動療法がよく用いられます。子どもにあった環境が整い、子どもが新しいことに挑戦する準備が整ってから行いましょう。


段階的エクスポージャー法では、今話せている場面の「人・場所・活動」の3つの要素のうち、1度に1要素だけ、より不安の高い場面の行動にチャレンジし、少しずつ発話場面を増やしていく方法です。(「活動」「場所」「人」の順で変えやすい傾向があります)。不安が少ない場面から少しずつ話せる場所や人を増やしていき、家庭の発話を学校の教室へと広げるように支援します。どきどき不安きんちょう度チェックシートをご活用ください。チャレンジしたい子どもの気持ちを大切に『楽しく・自信をつけながら・場数を踏む』ことが大切です。